ベンチャーのマネジャーが陥りがちな「任せる」への誤解

ベンチャーのマネジャーが陥りがちな「任せる」への誤解
目次


管理職に欠かせないメンバーマネジメント。人材育成をしつつ限られた時間と資源で成果を最大化させるのが管理職の仕事です。しかし、管理職の大きな誤解でマネジメントが上手くいかないことが多々あるのです。


「メンバーを育てるために、どんなことをしていますか?」

多くのベンチャー企業のマネジャーに聞くと、

「やったことのない仕事でも任せてチャレンジさせています!」
「あまり細かく指示を出さず、メンバーに任せています」

と返ってきます。これは本当に正しい「任せる」なのでしょうか?

今日はこの「任せる」について考えてみます。


  • ベンチャーでのギャップ
  • 適切なマネジメントとは
  • 勝てるベンチャーになるために

ベンチャーでのギャップ

世の中、

「マイクロマネジメントだとメンバーの能力が伸びない」
「面倒を見過ぎるとメンバーは成長しない」


といった風潮がありますよね。メンバー自身で考えさせ実行させることが成長に繋がるということです。

個人に大きな成長を期待するベンチャーでは、大手や中小企業と比べるとメンバーへチャレンジの機会を多く提供していたり、「任せる」場面が多くなります。

メンバー側も、挑戦心を持ったやる気のあるメンバーが集まるので、
「ぜひやらせてください!」というパターンがほとんどです。

任せることで成長すると思っているマネジャーはメンバーに積極的に仕事を任せます。
やる気のあるベンチャーのメンバーはそれを喜んで引き受けます。

こうして、ベンチャーでは


「任せないと!」と思うマネジャーと、「任せてください!」と言うメンバーの下、
“任せる”が行われるのです。

しかし、一定の日数が立った頃、


メンバー:「任せてもらえるなんて嬉しい!」
→1週間後「思ったより難しかったな…」
マネジャー:「任せたよ!」
→1週間後「あれ、想定よりもクオリティが低いな…」


両者とも「あれ?」という事態が発生します。こんな経験があるかと思います。私は、この事態はベンチャーのマネジャーの「任せる」への誤解が原因だと思っています。


上の図が多くのベンチャーのマネジャーの視界です。


マイクロマネジメントはいけないな→ではもっとメンバーに任せよう!

どうしても二元論で考えがちです。しかし、この「任せる」の多くは「丸投げ」であるように思います。(ここでは丸投げ=メンバーにとって動くべき方向がわからないこと、を指します)

自分ではメンバーに「任せている」と思っていても、それは実は「丸投げ」状態かもしれないのです。

適切なマネジメントとは


適切に任せているのか、丸投げなのか。これはメンバー本人の力量と渡す仕事の関係性で決まります。本人の力量と比べたときにはるかに高い難易度の仕事だと、
それは「任せる」ではなく「丸投げ」なのです。

この前テレビを見ていたら、ここ10年間の箱根駅伝で6回優勝している、
青山学院大学体育会陸上部の原監督が、以下のように言っていました。


「とにかく半歩先の目標を与える。半歩先だから頑張ればなんとか達成できる。
そうしたらまた半歩先の目標を与える」


まさにマネジメント!壮大な目標の提示だけではうまくいきません。“簡単ではないけれど頑張ればクリアできそう”このレベルを見極めた仕事を振って目標達成まで誘導するのです。

そうして目の前の通過点を越えさせ、大きなゴールに近づけていきます。遠すぎる/大きすぎる目標だけを掲げるのではなく、その間を設計して成果創出や成功体験を確実なものとします。


〜例えば〜

とある営業部の若手がいたとします。入社3年目、メキメキと実力をつけ1人で商談も難なくこなし月の営業数字も安定しています。このメンバーに「来期の重点戦略を考える」というミッションを与えた場合、本人の力量を踏まえると難しい仕事であり、このままだとそれは「丸投げ」の仕事になります。



上の仕事の渡し方だと、メンバーがやったことのない仕事なので、2週間後の成果物のクオリティは0〜100点のどこが来るか予測できません。
正直0〜40点の可能性が高いです。

2週間というメンバーの時間・人件費、2週間後の修正にかかる
マネジャーの時間・人件費を考えると、得られる成果は望ましくないはずです。


また、丸投げの弊害はメンバーのモチベーション、自己肯定感に現れます。

2週間頑張ったのに「全然ダメだね」「大幅な修正が必要だね」という成果物へのフィードバックが発生します。

「慣れない中頑張ったのに」「何の役にも立たないのか」と2週間が無駄だったとさえ感じるかもしれません。


対して、丸投げではない、「任せる」にした場合。

まず、成果物のクオリティが大きく変わります。途中でマネジャーのチェックや修正が入っているので、大きくずれることはなくなるでしょう。順番に工程を進めれば、
2週間後には60〜80点くらいのものが出来上がると思います。

どちらにせよ100点にするためのサポートが必要ですが、2週間後に必要な修正の量は大きく変わります。2週間のメンバーの仕事を最大限に活かせば、後に必要な修正=自分の仕事量が減らせます。

丸投げして出てきた成果物のクオリティでメンバーに対して「あいつはダメだ」と言うマネジャーにかける言葉は一つです。


「任せる」を誤解し、「丸投げ」をしたあなたに責任があります。


大きな目標を与えて丸投げ+そこを到達させることでメンバーを育てる。この方法でないとメンバーは育たないなんてことはありません。

適切な任せ方をすれば、確実にメンバーの成長につながります。大きなジャンプでなくとも、一段一段確実に上がっていてマネジャーのサポートを受けながら、結果「戦略を考える」というやったことのない仕事をこなせたことになります。

成功体験をどう詰ませてあげるか、マネジャーの力量が問われる「任せ方」です。 

勝てるベンチャーになるために

実は、この「任せる」への誤解は現場のマネジャー層だけで起きているわけではないのです。

最もすれ違うのは、経営側とマネジャーです。


「丸投げはだめだと言われても、自分は丸投げをされながら成長してきたんだ」

会社の創業当時から参画し、現在経営幹部になっている層はこのように思う方もいらっしゃると思います。それで成功もたくさん経験してきているので「丸投げでも頑張ればなんとかなる→なんとかしろ」と思ってしまうのです。

しかし、同じだけ、もしかしたらそれ以上に失敗も経験してきているはずです。


会社のアーリーステージ(=模索期)は、わからないことも多く手探り状態でなんとかやってみるでOKな時期です。トライアンドエラーをいかにたくさんしていくかが大事。

ただ、会社の人数が増え、人材育成が必要な段階となると、会社は大きな成長ステージ(=拡大期)に入っていますよね。

この段階で、「任せる」を誤解して「丸投げ」を続けていると、
成長スピードは確実に鈍化します。 


マネジャーが「丸投げ」をする
→想定していた成果が得られない
→マネジャーがカバーする
→メンバー育成が進まない
→業績が思うように上がらない…


一定期間が経った頃に、「なぜメンバーの成長スピードが上がらないのだろう?」と気づく。こんな事態は避けたいはずです。

勝てるベンチャーと勝てないベンチャーの差はここにあります。いかに人を育てて業績を上げるか。

経営側は “メンバーにどう仕事を渡すか“もマネジャーの仕事だと伝え続けてください。ポイントはどう渡すか、の部分です。

「メンバーにも仕事を任せてしっかり育てるように」

これだけ伝えると、「任せる」への誤解から「自分の仕事を任せれば良いのだ=丸投げ」になっている可能性が高いです。そもそも経営側と現場で「任せる」ことへのギャップがあったり、経営側も現場も「任せる=丸投げ」となっている場合は要注意です。

丸投げしている限り、成長は個人の能力に任せっきりになります。アーリーステージを超えた拡大フェーズの企業において、成長幅が揃わないのは大きな障害です。

成果も成長も手にするために、経営も現場も、正しい「任せる」を知る必要があると思います。

水谷健彦
記事を書いた人
水谷健彦

リクルートでHR領域でのキャリアをスタートし、社員20名の創業間もないリンクアンドモチベーションへ。急成長する組織で事業部長として上場を迎えた。その後取締役を務め、上場企業としての舵取りを経験。取締役退任後、2013年にベンチャー特化の組織コンサルティング会社JAMを創業。 経営をしながら、現在も成長著しい複数の企業でボードメンバーも務めている。AnyMindには上場の2年前から日本およびグローバルの人事責任者として参画。上場に向けた組織基盤を構築し、時価総額500億以上のネクストユニコーン企業の組織強化をリード。AI領域トップランナーのPKSHA Technology、クラウドインテグレーション領域で上場したSharing Innovationでは社外取締役を務めており、上場企業の組織戦略について日本で有数の経験を持つ。

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